七夕賞2016~ アルバートドック『長い苦悩の日々と、消せない後悔の思いが、新しいエネルギーとなる』


◆七夕賞2016


【アルバートドック】

○Albert Dock
○牡4
○父ディープインパクト
○馬名の由来⇒ イギリス港湾都市リバプールにあるウォーターフロント地区

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◆長い苦悩の日々と、消せない後悔の思いが、新しいエネルギーとなる



≪喫茶店にて≫



ショウナンマイティ
「オレたちは、チーム殿一気(しんがりいっき)」


ウインバリアシオン
「おう。『チーム殿一気』は、あえて確率的に一番不利な、”追い込み”で勝負する」



ショウナンマイティ
「先行策なんざ、力なき者の小細工にすぎねえ」


ウインバリアシオン
「おうよ。あえて困難な道をゆくのが男の美学」



ショウナンマイティ
「ウサイン・ボルトは、距離が 100mしかなくても追い込む」


ウインバリアシオン
「おう。奴もまた、男の中の男」



ショウナンマイティ
「男は黙ってシンガリ一気」


ウインバリアシオン
「そう。俺たちは!」


二人
『チーム殿一気!!』



ショウナンマイティ
「・・『チーム殿一気』は、極悪愚連隊」


ウインバリアシオン
「おうよ。泣く子も黙り、吠えるドーベルマンも、おなかを見せる愚連隊」



ショウナンマイティ
「男の中の男。それが『チーム殿一気』」


ウインバリアシオン
「おうよ。男らしさだけが、チームのアイデンティティ」



ショウナンマイティ
「・・チーム殿一気は、喫茶店で金がないとき、コンビニで買ったクリームパンを持ち込んで食う モグモグ」


ウインバリアシオン
「おうよ。傍若無人は勇気のしるし モグモグ」



ウェイトレス翔子
「・・あ、あの・・申し訳ございませんが・・当店は、お持ち込みはご遠慮いただいておりまして・・ 震」


ウインバリアシオン
「あぁっ?! 睨」


ウェイトレス翔子
「ひぃっ!! 汗」



ウインバリアシオン
「・・ねぇちゃんよぉ・・」


ウェイトレス翔子
「は、はい・・ 震」



ウインバリアシオン
「・・・・ 睨」


ウェイトレス翔子
「・・・・ 震」



ウインバリアシオン
「・・スマン。クリームパンは片付ける ガサゴソ」


ウェイトレス翔子
「え?」



ショウナンマイティ
「チーム殿一気は、男の中の男。・・男は、自分が間違っていると気づいたら潔く謝り、新しい価値観を受け入れる」


ウインバリアシオン
「おう。安いプライドにしがみつき、自分の考えに固執するのは小物の証」



ショウナンマイティ
「そう。俺たちは!」


二人
『チーム殿一気!!』


ウェイトレス翔子
「・・・素敵・・ 惚」



ウインバリアシオン
「おう。ねぇちゃん。熱々の激辛あんかけ焼きそばは、まだか?唐辛子たっぷりのやつよ」


ウェイトレス翔子
「あ、はい。お持ちしました。こちら熱々の『激辛あんかけ焼きそば』になります。あんが沸騰しておりますので、フーフーしてお召し上がりください 熱熱」



ウインバリアシオン
「フン。チーム殿一気は、男の中の男。フーフーなんざ、女子供のやること」


ショウナンマイティ
「そう。どんなに熱くても、熱いとか言わないのが男の花道。間違っても言うなよ?熱いとか。絶対言うなよ?」



ウインバリアシオン
「あたりめえだ。誰にモノ言ってんだコノヤロウ。・・バクッ・・・。あぁっーちゃちゃちゃちゃーー!!辛れぇーー!!熱汗汗」


ショウナンマイティ
「フッ。ダチョウ倶楽部ばりのフリが、男の花道」


ウインバリアシオン
「そう。笑いのためなら、体の苦痛もなんのその。それが男の生きる道」



ショウナンマイティ
「そう。俺たちは!」


二人
『チーム殿一気!!』


ウェイトレス翔子
「・・・・汗」



ショウナンマイティ
「例えば、チーム殿一気が、防水ではないスマホを購入したとき」


ウインバリアシオン
「おう。チーム殿一気は、あえて、そのスマホを水につけてみる」



ショウナンマイティ
「そう。『3秒以内なら勝負になるはずだ!』と言って、買ったばかりのスマホの電源が入らなくなるのが、男の花道」


ウインバリアシオン
「おうよ。あえて困難な道を行くのが、男の心意気」



ショウナンマイティ
「そう。俺たちは!」


二人
『チーム殿一気!!』


ウェイトレス翔子
「・・・・汗」



ウインバリアシオン
「さあ。今日も、迷える子羊が現れたようだぜ」


ショウナンマイティ
「ああ。そのようだな」



≪隅っこの席にて≫



アルバートドック
「はぁー。松田博資先生の定年後、須貝尚介厩舎に転厩して3戦。まだ結果を出せていない…。しかも今週の七夕賞は、なんだか人気になってしまいそうだ…。不安だ… 落」


ウインバリアシオン
「おう。兄ちゃん ドカッ 座」


ショウナンマイティ
「悩み事か? ドカッ 座」



アルバートドック
「あ!!チーム殿一気の、お二人だ! 指指」


ショウナンマイティ
「指をさすな」



アルバートドック
「マイラーズカップの時は、ありがとうございました!惜しくも5着でしたが、全力は出し切れたと思います!」


ウインバリアシオン
「そうか。じゃあ俺たちが、お前のカツサンド代を払ってやる。伝票よこせ」


アルバートドック
「あたーす!!」



ウインバリアシオン
「・・引き続き、お前の事は、調査済みだ」


ショウナンマイティ
「・・アルバートドック。スローペースでも、最後方から追い込む、男の中の男スタイル」


アルバートドック
「は、はぁ」



ウインバリアシオン
「マツパク氏に捧げる最後の重賞レース、小倉大賞典。一か八かのイン強襲&殿一気。見事だった」


アルバートドック
「ええ…。引退するマツパク先生の、最後の重賞レースだったんで、必死でした」



ウインバリアシオン
「そして、須貝尚介厩舎への転厩初戦、中日新聞杯。シンガリ追走からのシンガリ負け。見事だった」


アルバートドック
「い、1コーナーで挟まれてしまって…。やる気がなくなってしまいました。転厩初戦で状態も良くなかったかもしれません… 落」



ウインバリアシオン
「もちろん今回も、殿一気だよな?」


アルバートドック
「い、いやー、芝の状態が良い福島なので、追い込みは決まらない可能性が高く、展開次第では、なるべく前に行きたいです」



ウインバリアシオン
「ダメだ」


アルバートドック
「え? 汗」



ウインバリアシオン
「どんな展開であっても、4角最後方で回ってこい」


アルバートドック
「そ、そんな無茶な 汗」



ウインバリアシオン
「ウサイン・ボルトは、100m走でも追い込む」


アルバートドック
「ボルトじゃないですもん 汗」



ウインバリアシオン
「ラスト1ハロン(200m)で、9秒台前半を出せれば差し切れる計算だ」


アルバートドック
「その計算おかしいでしょ 汗」



ウインバリアシオン
「ボルトと同じ9秒台を出せばいいんだ」


アルバートドック
「ボルトは100mでしょ 汗」


ウインバリアシオン
「細かい事は気にするな」



アルバートドック
「ラ、ライバルのシャイニープリンスさんは、七夕賞と同じ福島2000mの福島民報杯で、華麗に先行して、0.5差の楽勝です。今回も有力。ある程度マークしていかないと・・」


ウインバリアシオン
「大丈夫だ。七夕賞は関西馬が圧倒的に優勢なレース。シャイニープリンスは関東馬だから、お前の方がデータ的に有利だ」


アルバートドック
「そんなピンポイントなデータでは・・ 汗」



ウインバリアシオン
「成せば成る」


アルバートドック
「成りませんよ 汗」


ウインバリアシオン
「なんでよ」



アルバートドック
「・・・・」


ウインバリアシオン
「・・・・」



アルバートドック
「・・ボクは、あなたたちとは違って、超一流の才能と運に恵まれている馬ではないんです…」


ウインバリアシオン
「・・・・」



アルバートドック
「初勝利を挙げるまで、3戦もかかっているし、重賞レースだって、マツパク先生の定年レース究極仕上げの小倉大賞典、1回しか勝ったことがない」


ウインバリアシオン
「・・・・」



アルバートドック
「転厩してから3戦は、惨敗続きだし」


ウインバリアシオン
「・・・・」



アルバートドック
「ボクの人生を振り返ってみれば、歓喜の瞬間より、挫折と不遇の時代の方が、ずっとずっと長いんです… 落」


ウインバリアシオン
「・・・・」



アルバートドック
「そんな自分の人生を思い返しては、自虐的に自嘲してみたりしてね 苦笑」


ウインバリアシオン
「・・・・」



アルバートドック
「・・『たははっ…自分の人生なんて、所詮こんなもんさ。自分は輝けない運命なのさ… 自嘲』・・なんてね」


ウインバリアシオン
「・・・・」



アルバートドック
「そうそう。自虐とか自嘲って、気持ちいいんですよ。自分自身をあざ笑うことで、ある種の脳内麻薬が出ますからね。自虐思考は、努力しなくても、いい気分になれちゃうんですよ 苦笑」


ウインバリアシオン
「・・・・」



アルバートドック
「まぁ、あなたたちみたいな、超一流の才能と運に恵まれたエリートは、自虐に逃げる必要なんか、ないんでしょうけどね 苦笑」


ウインバリアシオン
「・・・・」



アルバートドック
「挫折経験なんて、何の役にも立たないですよね。挫折のない人生こそが、理想の人生なんですよね。きっと 苦笑」


ウインバリアシオン
「・・・・」



アルバートドック
「あーあ。ボクも生まれ変わったら、エリートになれるように、今から怪しい宗教にでもお祈りし・・」



  バキッ! 拳



アルバートドック
「ぐわぁー! 泣」


ウインバリアシオン
「・・・・ 拳」



アルバートドック
「な、何するんですか!泣 警察呼びますよ! 頬手」


ウインバリアシオン
「・・呼べや」


アルバートドック
「え? 汗」



ウインバリアシオン
「・・警察でもなんでも、呼びたきゃ呼べや。俺たちは、逃げも隠れもしねえぜ」


アルバートドック
「・・・・」



ショウナンマイティ
「おい。やめとけシオン。暴力はマズイな」


ウインバリアシオン
「うるせえ。黙っとけ」


ショウナンマイティ
「フー。熱いね 汗」



ウインバリアシオン
「・・超一流の才能と運に恵まれたエリートだと?」


アルバートドック
「・・・・」



ウインバリアシオン
「・・オレも、マイティも、生まれつき脚元が丈夫ではなく、何度も長期休養を余儀なくされた」


アルバートドック
「え・・」



ウインバリアシオン
「しまいには、長い長いリハビリに耐えて、やっとたどり着いたレースで、また脚をボロボロに壊しちまって、引退だ」


ショウナンマイティ
「オレも、シオンも、そんな最後だったんだよ」


アルバートドック
「・・・・」



ウインバリアシオン
「小僧よ」


アルバートドック
「・・・・」



ウインバリアシオン
「・・『成功者はみんな、才能と運に恵まれたから成功したんだ!自分は不運だ!』・・そんな幼稚な考え方は、いい加減やめろ」


アルバートドック
「・・・・」



ウインバリアシオン
「・・俺は思うんだ」


アルバートドック
「・・・・」



ウインバリアシオン
「・・暗黒の時代、不遇の時代が長かった者ほど、その後の成功の確率も高まるハズだ・・ってな」


アルバートドック
「・・・・」



ウインバリアシオン
「確かに、生まれてから死ぬまで、ずっと花道を歩き続ける者もいる。だがそれは、ごく稀な例だ」


アルバートドック
「・・・・」



ウインバリアシオン
「ほとんどすべての者は、その才能に大差なく、その運にも大差はねえ」


アルバートドック
「・・・・」



ウインバリアシオン
「それなのに、成果に差が出るのは、ただ毎日の行動が違うというだけの理由だ」


アルバートドック
「・・・・」



ウインバリアシオン
「みんなわかってるはずだ。どうすれば人生が良くなっていくのか。何をすれば人生が悪くなっていくのか」


アルバートドック
「・・・・」



ウインバリアシオン
「みんなわかっているが、行動できる者と、できない者がいる。その差はなんだ?」


アルバートドック
「・・・・」



ウインバリアシオン
「その差を規定している要素のひとつは…」


アルバートドック
「・・・・」



ウインバリアシオン
「・・挫折と屈辱と後悔の日々・・だと思う」


アルバートドック
「・・・・」



ウインバリアシオン
「お前はさっき、『挫折経験なんか役に立たない』と言ったな」


アルバートドック
「・・・・」



ウインバリアシオン
「確かに、挫折や屈辱の経験は苦しい。暗闇から抜け出せない日々は、毎日が絶望感との戦いだ」


アルバートドック
「・・・・」



ウインバリアシオン
「だが、そんな苦悩の日々は、断じて無駄な時間などではない」


アルバートドック
「・・・・」



ウインバリアシオン
「長い苦悩の日々が、消せない後悔の思いが、新しいエネルギーとなるからだ」


アルバートドック
「・・・・」



ウインバリアシオン
「暗黒の時代を生きた経験がない者は、後悔が少ない代わりに、爆発的なエネルギーもない」


アルバートドック
「・・・・」



ウインバリアシオン
「小僧よ」


アルバートドック
「・・・・」



ウインバリアシオン
「不遇の時代や暗黒の時代を、役に立たないものとするも、明日を切り拓くパワーとするも、すべてはお前の自由だ。好きにすればいい」


アルバートドック
「・・・・」



ウインバリアシオン
「だが、俺たちは戦い続ける。どんなに不運でも、どんなに暗闇が続いても、チーム殿一気は、泣き言は言わねえ」


アルバートドック
「・・・・」



ウインバリアシオン
「それが男の心意気だからだ」


アルバートドック
「・・・・」



ウインバリアシオン
「・・最近は、女が強くなったとか、草食系男子だとか言われているが、男には、男だけが持つ爆発的なパワーがあると、俺は思う。特に、暗黒の時代を越えてきたような、傷だらけの男にはな。」


アルバートドック
「・・・・」



ウインバリアシオン
「チーム殿一気の旅路は、男の意地を見せる旅でもあるんだ」


アルバートドック
「・・・・」



ウインバリアシオン
「お前は、一生そうやって、ただ不遇を嘆き、自虐の脳内麻薬と戯れていればいいさ」


アルバートドック
「・・・・」



ウインバリアシオン
「・・フン。お前は見所がある奴だと思ったんだがな。オレの勘違いだったようだ」


ショウナンマイティ
「あんまり言ってやるな、シオン。かわいそうだろ」


アルバートドック
「・・・・」



ウインバリアシオン
「・・チーム殿一気は、自分の夢や目標の達成に必要な行動を、毎日積み重ねる。たとえ誰が笑ってもだ」


アルバートドック
「・・・・」



ウインバリアシオン
「・・フン。まあこれは、あくまでオレたちの思想。押しつけるつもりはない。邪魔したな。カツサンド代は払っておいてやる。じゃあな」


ショウナンマイティ
「じゃあな」



アルバートドック
「あ・・。あの・・」


ウインバリアシオン
「なんだ」



アルバートドック
「・・・・」


ウインバリアシオン
「・・・・」



アルバートドック
「・・ありがとうございました・・」


ウインバリアシオン
「・・・・」



アルバートドック
「・・不遇時代への後悔こそが、明日を生きるための、新しいエネルギーになる・・か。」


ウインバリアシオン
「・・・・」



アルバートドック
「あなたたちが、運に恵まれたエリートだなんて言って、ごめんなさい・・。ボクは・・なんてバカだったんだろう・・ 泣」


ウインバリアシオン
「・・・・」



アルバートドック
「ありがとう!チーム殿一気!大切なことに気づかせてくれて!」


ウインバリアシオン
「フン。別にお前のために言ったわけじゃねえ。オレが言いたかっただけだ。礼を言われる筋合いはない」



アルバートドック
「あの・・」


ウインバリアシオン
「ん?」



アルバートドック
「・・まだボク・・チーム殿一気の一員ですか・・?」


ウインバリアシオン
「・・・・」


アルバートドック
「・・・・ 見」



ウインバリアシオン
「お前の自由だ。チーム殿一気は何も強制しない。お前自身が、お前の頭で考え、自分の生きる道を決めろ」


ショウナンマイティ
「そう。それが男の中の男」


アルバートドック
「はい!チーム殿一気、最高です! 泣」



ウインバリアシオン
「おう。俺たちの名は『チーム殿一気』。名乗るほどの者ではない」


ショウナンマイティ
「おうよ。名乗っちゃってるぜ」



ウインバリアシオン
「最近の世の中は、まっすぐに生きることより、打算的で、小手先的で、こざかしく生きる方が得だという風潮がある」


ショウナンマイティ
「俺たち『チーム殿一気』は、そんな世の中に警鐘を鳴らすべく組織された、男気軍団」



ウインバリアシオン
「あえて損の道を行く。それが、チーム殿一気」


ショウナンマイティ
「それが極悪愚連隊」


ウインバリアシオン
「それが男のアイデンティティ」



ショウナンマイティ
「風が、オレたちを呼んでいる」


ウインバリアシオン
「おうよ。歩み続けよう。誰に馬鹿にされようとも」



ショウナンマイティ
「それが男の生きる道」


ウインバリアシオン
「そう。俺たちは!」



二人
『チーム殿一気!!』



  - つづく –



※この物語はフィクションであり、登場する団体・人物などの名称はすべて架空のものです。

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